無外流にも伝わる『自鏡流大小拵理方』の伝聞書を、神保町の古本屋で入手をしたので、古文書の専門家に翻刻文と現代語訳を依頼しました。
武術家が持つ刀はどうあるべきなのか、実用性を主に説かれており、大変参考になる内容となっています。中川士龍先生の著書に出てくる「無外流用法二十五箇事」はこの『自鏡流大小拵理方』を参考に作っていると思われます。
また、武術家だけでなく、刀匠はもちろん、鍔師、鞘師にも参考になる書となっています。
無外流だけでなく他流の武術家はもちろん、刀関係の方々のお役に立てられればと思い公開いたしました。
現代語訳いただいた方は、古文には精通しているものの、刀の専門家ではないため、ここがおかしいというご指摘がありましたらフッタにあるフォームからコメントをいただけますでしょうか。貴重な財産として、未来へ残していきたいと思います。
塩崎雅友

指領吟味之事

翻刻文
大小共ニ第一指領ハたいはい余過もせすすかれもせす、丈夫なる形にて金味沸へきたひ能上作之古身を数度我かためして見て大役ものならバたとへ柄鞘幾通りも代柄代鞘拵置、小サ刀抔ニも仕、兎角我覚への有之大小身不断我身をはなさぬ様持へし、如此覚有大小懸替共に三通程有之ハ沢山也
現代語訳
第一に、大小ともに指領(差料)を過度に帯佩してはならない。適度に丈夫な形で鍛え上げられた金味の沸をもつ上作の古身を数度試し、大役物であれば幾通りの代柄・代鞘を拵え、小刀などにも加工すべきである。ともかく、見込みのある大小は離さず持っておくことが肝要である。大小の替えともに三本ほどあれば沢山だろう。
大小身之形善悪之事

翻刻文
三角太刀と云ハしのきの高く三角にして、重ね厚ク幅せまきを能と云、是ハ三角にしの木の高き所に而ハ能、他の太刀をはるに強きゝなり、重ね厚きハ突にも打にも強シテ吉と也、但し小切先にして少つり合能反りの有か吉、反リハ我か身の垣囲に太刀を遣候時成者也、然れ共反りの過るハ打付弱して悪きと也、余りにそりの過るは馬上ニてハ抜ニ其身ニ太刀引付て、手縄不切して能と也、但し左手にて片手縄に持て外ゟ右手を廻し抜手綱不切也
大小共に平作りハ切ハ能れとも、つりあへ悪く惣体弱しト也、不可用、打付留にそびへ手廻と也
現代語訳
三角太刀は、しのぎが高く、断面が三角形となるような造りで、厚みがあり、幅の狭いものを良しとする。三角形でしのぎの高い造りであれば、他の太刀を受け止めた時に強く、さらに重ねが厚いものは、突くにも打つにも強靭で吉とされる。小切先にわずかに反りがあるものが吉である。反りとは、己が身の範囲で太刀を自在に使うために必要なものである。しかしながら、反りが過度になると、打ち付けた際に力が逃げてしまい、脆くなってしまう。もっとも、反りが強いと、馬上において抜刀する際、自身の体に刀が引き付けられ、手縄が切れずによい。ただし、左手で片手縄を持ち、外側から右手を回して抜刀すれば、通常でも手綱を切ることなく使用できる。
大小ともに平作りの刀は、斬るには適しているが、釣り合いが悪く、全体として弱い。よって用いるべからず。「打付留にそびへ手廻と也」。
塩崎のコメント
中川士龍先生は著書で、”三角”が分からないと残されているが、鎬が高い刀ということが分かった。
大小寸尺


翻刻文
邦宗先生曰、大小寸尺ハ全ク其人ノ器量ニ依テ也、決テ定カタシト也
脇指ハ 大方壱尺八寸程
刀ハ 大方二尺二寸程
如此ハ吉といへとも、畢竟長刀の理を極め尽し、短刀の理を尽し、長き刀の善悪を知るべし、或ハ人々の器量に依而長短之相応不相応もあるべし、然とも長短軽重の善悪ハ定めガタシ事、縦令ハ正宗か打たる太刀にてもたひはひ過重ク長太刀を老人小人にもたせバ苦ニは成とも、其身の用に立兼べき也、然は其相応の可有道具、不相応にて使にくゝ働のぢやまになるは残念なるべきなれハ、如此意味能心を付て工夫すへし、然とも長短の内にてハ短き刀ハ長過たるよりハ、常に取廻安也、乍然余り短く過たるも悪し、居合兵法たんれんしたる人の刀を見る、大方ハ刀の寸短きを好ミ御す人多し
現代語訳
邦宗先生曰く、大小の寸法はまったくその人の器量によるものであり、決して一概に定められるものではない。
脇指は、おおよそ壱尺八寸ほど。
刀は、おおよそ弐尺二寸ほど。
このような寸法は吉といえるが、結局のところ、長刀・短刀双方の道理を極め尽くすことによって、長刀の善悪を知ることが肝要である。あるいは、人それぞれの器量によって長短の相応・不相応もあるであろう。長短や軽重の善し悪しは、容易に定めがたいことである。たとえ正宗が打った太刀であっても、あまりに重く長い太刀を老人や小柄な者に持たせれば、かえって苦になるが、その人の体に適していれば、十分に役に立つ。よってその人に相応しい道具を備えるべきである。不相応の刀を使って扱いに困り、働きを妨げるようでは誠に残念であるから、このような趣旨をよく心にとめて工夫すべきである。それでも、長短のうちでは、短き刀の方が、長すぎる刀よりも常に扱いやすいものである。ただし、あまりに短すぎるのもまた悪い。居合や兵法をよく鍛錬した人を見るに、おおむね短い寸の刀を好む者が多い。
塩崎コメント
高橋 赳太郎先生は、短い竹刀を使っていたと聞いたことがあります。
大小の身樋を掻事

翻刻文
大小に樋を掻事ハ道具之強軽く成ル為、或ハ打合戦時右の樋ゟ響きの気もれて我か手へ痛不来、尤道具つよくなる故打合ても太刀折すして吉也、或は勝負之時節左手ニて樋の所をつかみ持添て押懸ニ強みになりて吉也、水中に不図飛込、或ハ大雨に逢而さやの内へ水入候而も、右の樋にてさやと道具の身との間透除候事故、水ニてくひしめつさびつたる事なし、梵字抔切も樋と同意也、兎角樋を掻ハ德多き物也、樋ハ手の内迄一盃に抓たるか戦合候時ひゝき手の内へ不来ゆへ手不痛して吉と也、古キ道具ハ手の内に斗樋を樋たるも有、或ハ目針穴多きも有、皆右如く手の内へ響不来様ニとて 如此仕也、如此故目針穴三ツ四ツも数有之程ひゝきもれて手も柄木も不痛して吉と也、俗樋手の内へ掻ハ血手の内へ来るとハ非也
現代語訳
大小の刀に樋を掻くことは、刀身を軽く、かつ強くするためである。また、打ち合いの際に、この樋から音が抜けるため、衝撃が手元に響かず、痛みが手に伝わることがない。さらに、道具は強くなり、打ち合っても太刀が折れにくく、吉である。勝負の場面においては、左手で樋の部分を持てば、押し掛かる際に力が入りやすくなり、これもまた吉である。不意に水中に飛び込んだ場合や、大雨に遭って鞘の内へ水が入ったとしても、この樋によって鞘と刀身の間に隙間ができるため、水が侵食して錆びる事態を避けられる。梵字などを刀身に刻むのも、樋と同じ意味を持つ。いずれにせよ、樋を掻くことには、多くの利点がある。樋は、手の内まで一杯に掻かれていると、戦いの時に衝撃が伝わらず、手が痛まぬため吉である。古い刀には、手の内だけに樋を掻いたものもあり、また目針穴が多く空けられているものもある。これらはすべて、衝撃が手へ響かぬように工夫されたものである。このような理由により、目針穴が三つ四つと多数空いていれば衝撃が漏れ、手も柄木も痛まず吉である。俗に、樋を手の内まで掻くと、血が手に流れてくると言う者もいるが、それは真実ではない。
柄木之事

翻刻文
枇杷の木柚子の木可用、右両木ハ堅くしなる故用也、堅過は折レしな過たるはこみ穴非也、唯しなかたき木か吉
現代語訳
柄木には、枇杷の木および柚子の木を用いるのがよい。この両木は、堅く、しかも適度にしなるため適している。堅すぎる木は折れやすく、また、しなりすぎる木はこみ穴にとって好ましくない。適度にしなり、かつ堅い木こそが吉である。
手の内事

翻刻文
手の内長サ柄木と同寸法にするハ柄木痛悪、柄木の長ゟ五六分壱寸もこみを短すべし、猶又こみの先形口伝有、或ハ鎺下になる所のこみ歯形の方ハやすりにてすりて歯無之吉、 歯有バはゞき痛みさけるもの也、こみのさき如此にして吉
如此ニカキルヘカラス
同クハ如是ト云心カ
現代語訳
手の内を柄木と同じ寸法にするのは、柄木を痛めるゆえに悪い。柄木の長さよりも、五分か六分、あるいは一寸ほど、こみ(茎)を短くするのがよい。さらに、こみの先の形については、口伝がある。たとえば、鎺の下にあたる部分のこみの歯形は、ヤスリで擦って歯を無くすのが吉である。歯があると、はばきを傷め、裂けてしまうことがある。したがって、こみの先は左の図のようにするのがよい。
この形に限られるわけではない。
この形に倣うべきという意図であろう。
鎺之事

翻刻文
一重鎺を可用、二重ハ太刀打きひしき時ハはなるゝもの也、はゞきはなれてハ柄鍔に惣体にき出してよわき也、きれのおさへなり、悪キもの也
現代語訳
鎺は一重のものを用いるのがよい。二重鎺は、太刀を激しく打ち合う際に外れやすいものである。鎺が外れると、柄や鍔がずれ刀の構えが緩み、全体として脆くなる。鎺は切先をおさえる肝要な部分である。よって外れやすいものは悪い。
切羽之事


翻刻文
鍔の表の方ゟ弐枚裏の方ゟ如此弐枚切羽に仕候かよし、此心ハ太刀打合時、常の壱枚切羽にてハ万一切羽破れたる時ハ鍔も柄もくつろき、先手勝負のぢやまになると也、切羽ハ数多程か鍔の当りになりてよしとなり、古への太刀にハ大方三枚切羽有之も此心也、猶又口伝有り、或ハ切羽ハ我か信仰仕候仏神之御名カ経文抔彫付ル事も有、古も宇治の平等院ニ頼政之帯し給ふ太刀有之ニ此切羽にも経文有之となり
現代語訳
切羽は、鍔の表側より二枚、裏側よりもまた二枚を挟む仕立てとするのがよい。その理由は、太刀打ち合いの際、通常の一枚切羽であると、万が一破損した場合に鍔・柄が緩み、先手を取ることが重要な勝負の妨げとなるからである。切羽は数を多くしてこそ鍔の当たりが安定し、望ましい。古来の太刀に、概して三枚切羽が施されているのは、まさしくこうした意図に基づいている。また、口伝として伝わるところによれば、切羽に己の信仰する神仏の名や経文などを彫り込むこともあるという。古例としては、宇治の平等院に所蔵される、源頼政が佩刀したという太刀にも、切羽に経文が彫られていると伝わる。
目貫之事

翻刻文
目貫ハ大きく高く無之か吉、大きなるは手痛て持にくき物也、不可用、当流ニ而目貫なしに仕候、目貫別而理方なしと也、古はわれ〱の信仰仕候神の御名を紙に書、目貫の内の方のくほき所へはさみ、それより松やににておさへて吉也、又縁柄頭の内ニも直ニ書も吉と也、かふと八幡座も同し事と也、但目貫ハ手溜りの為か
現代語訳
目貫は、大きすぎず、かつ高すぎない形状が相応しい。大きい目貫は掌に当たって痛みを生じ、持ちにくいため用いるべきではない。当流においては、目貫を用いない仕立ても行っており、目貫を使うことに特段の道理はない。古の例においては、自ら信仰する神仏の名を紙に書き、目貫の内側の窪みに挟み、松脂にてこれを留め置くのが吉とされていた。また、縁や柄頭の内側に直に御名を書きつけるのも吉とされる。兜の八幡座についても同様である。ただし、目貫は本来、手溜まりのためのものである。
縁柄頭之事


翻刻文
縁柄頭ハ鉄吉赤銅も吉、何れニもかねニて仕吉、ふちかしらに角も有ハ勝負の時手痛にきりにくき者也、柄糸の通る様ニ引通シにして吉、或ハ巻掛をして柄糸引通すにも吉、兎角引通しにせねば糸切るゝと柄こほれて悪シ、柄頭の形丸少しりうこなりにして吉、大方常の人ハ柄頭を角にて巻掛ル也、如何程念入候とも角ハ膠にて付る故、太刀打する時離る事有之と也、大形柄糸切れハ角の離るゝ故こほるゝに付嫌也、古の陣刀の拵様を見て了簡すへシ、猶又口伝有或は縁を青皮抔ニ而拵方も有、惣而皮の類靏のすね抔ハ打逢時手の内ニ汗出るハ又ハ勝負の時血付てぬめりて握りにくし、散々悪き者也、不可用
現代語訳
縁柄頭の素材は、鉄製が吉、赤銅もまた吉とされ、いずれにせよ金属製が望ましい。角を使った縁柄頭は、勝負の際に手に当たって痛み、斬りづらいため好ましくない。柄糸が通るように引き通しで仕立てるのが吉であり、また巻掛を施して柄糸を通すのも吉である。いずれにせよ、引き通しでなければ、糸が切れて柄を壊してしまう。柄頭の形状は、丸みを帯び、やや「りうこ」のような姿に仕立てるのがよい。多くの者は柄頭に角を用い巻掛とすることが多いが、どれほど念入りに製作したとしても、角は膠で留めるため、太刀打ちの際に外れることがある。柄糸が切れ、角が離れると、柄が壊れてしまうので、忌むべきである。古い陣刀のこしらえを参照し、その道理を理解すべきである。また、口伝としては、縁を青皮などで拵える例もあるが、総じて皮類―とりわけ鶴の脛など―は、打ち合いの際に手の内に汗を生じさせ、また勝負の際には血が付着して滑り、握りにくくなる。かような理由により、きわめて不都合であり、皮類は用いるべきではない。
柄糸之事

翻刻文
小倉にて巻たるハ手の内しまり有之吉、但かた捻りに巻たるふしを高無之様にひきく巻べし、しの巻かたひねりにしたるもよし
常の樋糸にてもろ捻に巻ふし、高巻たるハ手の内痛握り苦し、責て片捻に大菱に節高く無之、或はごまから巻不苦、糸の色ハあひ類よし、或は柄糸しゆろの皮抔ニて巻ぬりなとする方有、すりて大きに悪し
現代語訳
小倉織で巻いたものは、手の内に適度な締りが生じて吉である。ただし、片捻りで巻く際には、節が高くならぬよう、平らに巻くべきである。篠野で片捻りに巻いたものも良いという。
通常の樋糸であっても、諸捻りで節高く巻いたものは、手の内が痛み、握りづらくなる。せめて片捻りに仕立て、大きな菱目にせず、節が高くならぬようにすべきである。あるいは「ごまから巻」にしてもよろしい。糸の色は刀の装具と相応した類似の色がよい。また、柄糸を棕櫚(しゅろ)の皮などにて巻き上げ塗る流儀もあるが、これは擦れて著しく悪いという。
参考
無監査の柄巻師 三谷修史氏が「刀剣美術」に寄稿した中で小倉織柄糸について取り上げられている。
https://sikokusanukisibu.net/study/rmitani02.html
目釘之事 付穴揉時積之事


翻刻文
目釘ハ柄頭の方の指表より壱本常の目釘打候所の差裏之方ゟ壱本、但常目釘ハ鯨のひけを打てよし、柄頭の方ハしんちうか赤銅を鉄砲之捻之ごとくに捻にして可打、猶又満長と云秘伝之目釘有之、但シ目釘穴ハ右二ヶ所共ニ手握り候所を内ニ成様に穴をもみ明る也、是ハ敵と稠敷たゝき合候而も目釘手の握りたる内ニなり居り候故、目釘打ぬけぬ為めなり、刀の柄ハ両手ニ而握りつりあへ見て目釘穴如右両所にもみ、目釘表裏より可指、手間の広狭過不及、有ハふつりあへ打付弱て悪し
現代語訳
目釘は、柄頭側の差表より一本、通常の目釘を打つ位置の差裏の方より一本、計二本を用いるのがよい。通常の目釘には、鯨のひげを加工したものを用いるとよい。柄頭側の目釘には、真鍮か赤銅を鉄砲の捻子のように捻って打つべきである。さらに、満長と称する秘伝の目釘も存在する。目釘穴を揉み開ける箇所については、二ヶ所とも、刀を手で握った際に隠れるようにすることが肝要である。これは、敵ときびしく打ち合った時であっても、目釘が手の握りの内側にあることで、抜け落ちてしまうのを防ぐためである。実際に刀の柄を両手で握り、釣り合いを見計らうべし。このように、前述した最適な箇所に目釘穴を揉み開け、表裏より目釘を挿すべきである。手の間、すなわち目釘の間隔が広すぎても狭すぎても悪く、適切な位置にないと釣り合いが良くならない。釣り合いが悪いと、打ち付けた際に刀身が弱くなり、悪しきことである。
柄鮫之事


翻刻文
柄鮫ハ銅の打鮫を其侭掛れハ柄木の堅きと銅の打鮫の堅きと揉合、和合せす柄木痛て勝負の時砕ける事有之、此故に柄木へ地皮をきせて其上ニ右の銅打鮫を柄木の裏表へ計弐枚に切候を掛て、柄のむねと刃かたと両所の合目へハ常の柄鮫の能きを鮫の粒をすり落し取て、間皮之厚く強きを掛、扨黒塗へし、但右の銅の打鮫を柄木へくるりと皆くろ懸れバ、かねの鮫故堅くして柄木へ思ふ様不合和合せさる故、右の如銅の打鮫弐枚にして柄木の裏表ゟ懸る也、右之通仕候得ば、縦水中へ入ても柄鮫うるけ表裏へ不廻、常のつかさめを掛たるハ不図大雨抔に逢候得バうるけて右之通廻る者也、我師此覚有故、右の銅打鮫打たる時、江戸ニて火事に前後ゟ燃留られ、無是非御掘之内へ飛込火の鎮る迄終日水中ニ入被居所に、右鮫を懸てこくらにて巻たる柄妙々少シも不故弥其後ハ如此に斗拵給ふと也
現代語訳
銅で打った打鮫を直接柄木に掛けると、柄木の堅さと銅打鮫の堅さが揉み合って、うまく和合せず、柄木を傷め、勝負の時に砕けることがある。このため、まず柄木に地皮を着せ、その上から銅の打鮫を二枚に切り分け、柄木の表裏に掛ける。一方、柄の峰側・刃側の接合部分には、打鮫ではなく通常の柄鮫を用いるのがよい。鮫の粒を擦り落としたうえで、厚くて強い間皮を選んで掛け、黒く塗り固めるのである。銅製の打鮫を柄木全面にぐるりと巻きつけると、金属の鮫であるがゆえに堅すぎて、柄木と十分に馴染まず、また和合せず、うまく仕上がらない。このため、銅打鮫は二枚に分け、柄木の裏と表から掛けるのがよい。このように作れば、たとえ水中に入ったとしても、柄鮫がふやけて剥がれ落ちるようなことはない。通常の鮫皮を掛けた柄は、不意に大雨などに遭えば、ふやけてずれるものである。我が師にはこの心得があった。かつて江戸にて火事に取り巻かれ、逃れる術なく御堀の中へ飛び込み、火が鎮まるまで終日水に浸かっていたことがある。銅打鮫を用い、さらに小倉織で巻いた柄の刀を帯びていたが、少しも損じることがなかった。ゆえに、その後はこの方法で刀を仕立てるようになったという。
鍔之事




翻刻文
鍔のなりハ飯櫃なりかもつかふ形ニして、かねのきたひよく随分古きか吉、鍔の形余丸けれバ刀抜てちよと下に置く時ころび安ク、おのれか身のそばより遠くころびはしり抔行ハ不用心ニして悪し、況哉古への戦にしけき時節をや、尤もつかふ飯塚形ハ握たる拳の形なれは、拳のかくれて鍔の幅ニ費へなし、此故に古の太刀にハ皆もつこふ鍔の形ニて可知考、鉄の鍔の平厚内うすめに角とのつかぬ鍔吉、鎌倉地代の鍔を根ぬけといふて鍔の上とする也、右は頼朝の時代なれバ戦繁き時節故、刀鍛冶ニかタなと鍔と一所に誂へ打せし故、第一鍔のかねをきたへ念を入、かねを幾度もねり返し、鍔の形に打、柱へ穴をあけはさみ大石抔ニて打ひしき見ても、右ニかわらす、扨銘々の紋抔彫たるなり、猶かねのきたひ目利口伝有、赤銅あか金しんちうの鍔なと切込て悪し、金鍔ハ重し、角鍔ハふちにてうでいたみ悪、不断ふくりん鍔太刀打あへたる時ふくりんきれてはなれ候得バ目抔へ当りたる事も有不可用
鍔に大すかしハ太刀先鑓先右のすかしよりひよつと走り入事有之者也、元来鍔ハ太刀先鑓先之我手許へ来らぬ防ぎのための鍔なるに、右のことく大すかしゟ太刀鑓の先流れ走り込み少しも己か手に痛付てハ大に働のおさへになるコト也、此故ニ大透シハ不用也、又一向ニ透しのなきも敲合時ひゝきの気もれヌけさる故、手の内へ響強こたへ悪き故ニ下緒を引通ス程の小すかしは有てよし、馬を坂抔がん石落抔仕候時、常のさや留迄ニてハ振抜る事も有る者也、ヶ様の時右の小すかしの穴ゟ下緒を引通しさやを留乗て吉、所詮小すかしハ徳用有もの也
長き刀脇指にハ大鍔不可用短刀脇指ニハ大鍔不苦と也、短きハ手元へ近キ長きハ手元へ遠き故也、然共是ハ太刀の遣様功者不功者ニて可違
現代語訳
鍔の形状は飯櫃形(いいびつがた)か木瓜形(もっこうがた)で、金属の鍛えが良く、なるべく古いものが吉である。鍔の形があまりに丸いと、刀を抜き地に置いたとき転がりやすく、自身の傍から遠くへ転がり走ってしまい、著しく不用心である。ましてや、古の戦の多い時代においてはなおさらである。とくに握り拳の姿に似た木瓜形・飯櫃形は、鍔の幅に拳が隠れるため、余分な張り出しがなく合理的である。このため、古の太刀には全てこのような鍔が用いられており、その意図するところを知ることができる。
鉄製で、表面は厚く、内側は薄く、角のない形が吉である。鎌倉時代の鍔を「根抜け」と称して鍔の上とする。源頼朝の時代は戦いの多い頃ゆえ、刀鍛冶は刀と鍔を一緒に誂えた。したがって、念を入れて打ち、幾度も折り返して練った鍔の金属は、刀のようによく鍛えられている。たとえば柱に穴を開けて挟み、大石などで打ち叩いても変わらぬほどの堅牢さである。その上に、銘々の紋などを彫ったのである。金属の鍛えを見抜くための目利きには口伝がある。赤銅・赤金・真鍮などの鍔は、斬り込みに弱く悪い。金鍔は重く、角鍔は縁が腕に当たって痛み、これも悪い。覆輪鍔は、打ち合いの際に縁が切れて外れ、目など身体に当たる恐れもあり、用いるべきではないという。
鍔に大きな透かしが設けられている場合、太刀先や槍先がその透かしより侵入し、手元に刃が走り込む恐れがある。本来、鍔は太刀先や槍先が手元へ到達しないよう防御するために存在する装具である。刃が透かしから入り込み、少しでも手を傷つけるならば、本来の鍔の働きを著しく阻害することになる。ゆえに、大透かしは本質的に不必要である。一方、全く透かしのない鍔は、打ち合いの際に音や衝撃が抜けず、手の内に強く響き返ってくるため、これも悪い。したがって、下緒を引き通す程度の小さな透かしは設けてよい。たとえば、馬で坂を下り大きな石を越える時など、通常の鞘留めだけでは刀が抜ける恐れがある。そのような場合には、小透かしの穴から下緒を通し、鞘を馬に留め置くと、よく用を成す。ゆえに、小透かしは実用上の利点がある。
長い刀や脇差には、大鍔を用いるべきではない。一方で短刀や短い脇差には、大鍔を用いても差し支えないが、これは刀が短いほど手元が近く、大鍔の防ぎを要するからである。しかしながら、これは刀を使う人の腕、すなわち巧者か否かでも異なってくる。
参考
飯櫃形 = 楕円形、小判形
覆輪鍔
鞘之事


翻刻文
鞘ハ木地を中を少細メニりうこ形りに鞘の上の形りをけつりて、銅の針かねにて見合三四ケ所巻て、其のかねの端を結候得は高クなりて悪し、此故ニ捻り先を鞘木へ打さし置てよし、扨右の針かねの間を見合、かな引の平糸を以て巻、高ミひくみハ右平糸の並も直しぬれバねり鞘ニ乱うねりになりておとなしく見事也、是をうねりぬりといふ、右のことくさやの木地を少し細クりう子形ニけつる心は針金ひらいとニて巻て後並能頃になるゆへ也、如此けつらされバ針金平糸ニて巻てハ却而さや中ほとニ成りて見苦鋪也、惣而さや木古ゟ朴にて仕候、いつれハ異国ニて北方海中の島礠石有て鉄を吸と也、朴ハ礠石をよけるゆへ朴木ヲ朴の木を用ると也、又口伝有、鞘の内壒おとしを長くしたるゆへハ大小の身の為にさひず不痛して吉
現代語訳
鞘は、木地の内側をやや細く「りうこ」形に削り、削った鞘の上から三・四ヶ所を銅の針金で巻き留める。その際、針金の末端を結ぶと、結び目が高くなり良くない。ゆえに、針金の端は捻りを加えたうえで、鞘木に打ち込むとよい。次に、針金の間を見定め、金引きの平糸を巻く。針金の巻きの高低はこの平糸の並びで調整する。これを塗れば、ねり鞘となり、乱れる様なうねり塗りを施すと、落ち着いた美しい仕上がりとなる。これをうねり塗りと呼ぶ。このように、鞘の木地をやや細く「りうこ」形に削る理由は、針金や平糸を巻いた後、ちょうど良い状態になるよう調整するためである。もしも、このように削らなければ、針金や平糸を巻いた鞘が一層と太くなり見苦しい。総じて、鞘木には古来より朴の木が用いられる。これには理由がある。どこかの異国の北方の海には、鉄を引き寄せる磁石のある島が存在するという。朴の木はこの磁石の力をよく防ぐ性質を持つゆえ、鞘木として用いられるのである。また、これは口伝であるが、鞘の中の「込み落とし」を長めに設けているのは、大小それぞれの刀身が鞘の内で錆びず、また痛まぬようにするためである。よって吉である。
繰形の事

翻刻文
繰形ハ唐鞍形に高く中を虚に地板を薄く銅にて付、帯ゟぬけさる様ニ高くして、帯へ懸る所へ少シ帯請之有之様に繰て、形の山の所の形も帯の方へ覆へ掛り候様ニ、かとの無之様ニ、鉄ニてさび色ニして、唐草抔ニても象眼なとして模様ハ銘々望次第也
現代語訳
操形(栗形)は、唐鞍形に高く造り上げ、中央を空洞とし、地板を薄い銅であしらう。帯から抜け落ちることのないように高さを持たせて設計し、帯に掛かる部分には帯請となる膨らみを少し残して成形する。また、操形(栗形)の山の部分は、帯の方へ自然に覆いかかるようにし、角のない滑らかな形状とするのがよい。素材には鉄を用い、錆色に仕上げる。唐草模様などを象嵌にて施すのもよく、模様は各々の好み次第である。
鵐目之事


翻刻文
しとゝめハ此鳥の目乃廻ニ似りとて号たるよし、理用ハ軍中ニて勲功之名有者へ大将抔ゟ勲功之証拠に仮り之御褒美抔ニ被下ニ、軍場ニて急の事なれバ御取合無之故、鵐目片一方を御はつし被下者也、是ヲ戴たる人ハ我髪を結たる元結きりの所へ押込納置也、大将も右之証拠に其後御一生か間ハしとゝめハ不被成御付者也、尤軍終而右之勲功之者を召出シ御感状被遣候時、右之鵐目を証拠ニ御引合被成事も有、此外勲功御褒美物之伝段々次第有之事也、口伝
現代語訳
鵐目は、その形状が「鵐」という鳥の目の周囲に似ていることに由来する名称である。 戦場において、大将が勲功ある者に下賜する褒賞として用いられた。軍中では急を要するため、正式な褒賞品の準備が困難であり、やむなく鵐目の片方を仮に与えることがあったという。拝領した者はそれを自身の元結の結び目に押し込んだ。大将もまた、この行為を勲功の証として認識しており、新たに鵐目を付けることはせず、戦後、勲功ある者を召し出して御感状を授ける際に、自身が与えた鵐目を証拠として持参させたという。この鵐目の用途を始め、勲功にまつわる褒賞品には他にも様々な言い伝えが伝承されており、いずれも口伝によるものである。
下緒之事


翻刻文
重打か増花打抔のやわらか成ルを第一吉と也、就中重打か吉
即図の如く 此如蛇口を明けれバ常の蛇口ゟ目ニ不立して吉となり、下緒の打様やわらか成ルハ人抔をしばるにしまり自由ニ成て吉、蛇口付も右用候時の為也、或は軍陣ニて首抔取時に小刀かふかいニて耳たふかほんのくほかのとの内へ突通、下緒貫きくゝりて、馬上の物歩行立の者持様前ニ有之と同し事也、或ハ腰当の代ニも用様有り、其外用様ハ色々有へし、下緒の色常ニハ目ニ不立か吉、縦不図血抔付候而も不見して吉、又軍陣ニてハ目立色か吉、却而血付時血の色見るか吉と也、軍陣之節ハ下緒之色紺花色抔之藍の類ハ風雨に当りても不損、尤色の性強して吉と也、惣して貝の口なとの堅く打たる下緒勿論皮の下緒抔ハ自由ニ不成ほとけ安無益也、不可用、脇指之下緒も和か成る理方ニ吉となり、是も人をしばるに楊枝留抔或は馬上時せきなと馬をはねさする時、鍔の透へ下緒を仮ニ引通置事も有用様色々口伝
現代語訳
重打か増花打などの柔らかい織りの下緒が、第一にして吉である。とりわけ重打がよい。すなわち以下の図の如くである。
また、このように蛇口をあければ、通常の蛇口よりも目立たずによい。柔らかく仕立てられた下緒は、人を縛る際にも自在に締まり、都合がよいため、吉とされる。蛇口を付けるのは、かかる用途を想定してのことである。あるいは、軍陣において首級を取った際、小刀や笄を耳の後ろか頬骨のあたりから喉の内側に貫通させ、下緒を通して持ち帰るためにも用いられた。馬上の者や徒歩武者が首を持ち帰る場合の作法については、香箸の項で述べる通りである。また、腰当の代用としても用いることができ、そのほかにも用途は様々に存在する。下緒の色は、通常においては目立たぬものが良い。たとえ不意に血などが付着しても目立たず、吉である。一方、軍陣においては、逆に目立つ色の方が好ましく、血が付いた際にそれと認識しやすいため、吉とされる。戦場で用いる下緒の色としては、紺・花色など藍系統のものが風雨に当たっても損じにくく、色味も強く堅牢であり、誠に適している。
生金之事

翻刻文
生金の先を鞘へ付塗事は帯へ引かゝらす自由ニぬきさし不滞ため也、元来をいかねハ帯の答仕たる迄也
現代語訳
生金(折金)の先を鞘に装着し塗りを施すのは、帯に引きかけることで抜き差しを容易にするためである。本来、生金は帯を受け止めるためのものである。
参考
- 折金は、返角のこと。水牛の角などで作られたものを「返角」と呼び、金属製の場合は「折金」と呼びます。
鐺之事

翻刻文
刀鐺は鉄のさび色ニ、形ハ舟底形りにかとを丸めに強て、鉄金等かねの離不落様に右はりたるかねに十文字ニほそきかねニてせんをさしてさび色ニ塗也、如此すれは鐺堅きものへ打当ても不離してよし、こじりのなり少し丸めなるハ物に当りつかへすして外れ安くして吉
現代語訳
鐺は鉄製で錆色に仕上げ、舟底形に角を丸めて強固に作る。鐺に張り付ける鉄金などが離れ落ちぬよう、十文字に細い鉄線を通し、さらに錆色に塗装する。このようにすれば、硬い物に打ち当てたとしても、剥落せずによろしい。先端の形がやや丸みを帯びていると、物に当たっても滑ってかわしやすく、外れにくい鐺となるため吉である。
小刀之事


翻刻文
小柄を延付ニして柄の尻に猪の目を透して吉、随分かねをきたへ歯を能付さつとさひぬ様ニ塗ヲ吉、野陣抔の時渋紙抔にて小屋作る針ニも猪の目の穴こより通して〆るは色々用様有也
現代語訳
小刀は、小柄を延付して仕立て、柄の尻に猪の目型の透かし穴を設けるのがよい。金属をよく鍛え、刃付けを丁寧にし、すぐに錆びぬように柄を塗り上げるのが吉である。たとえば野戦の陣中において、渋紙などで即席の小屋を作る際、猪の目の穴にこよりを通して、針のように使って縛るなど、多様な用途がある。
参考
- 渋紙(しぶがみ)とは、和紙に柿渋を塗って乾燥させたもので、防寒、防水、強度を高めるために使われます。特に、柿渋を塗布することで、耐水性、耐久性が向上し、様々な用途に利用されてきました。
香箸之事

翻刻文
香箸ハ鉄のはかねニ而能鍛へ曲尺の目抔もりて吉、取所も綺なとしたるもよし、脇指の差表栗形有之方ニ仕込吉也、此用様軍中ニて人の首を取たる時耳たふかほんのくほの所ゟ喉の内内へ穴を通、何そ糸縄を引通馬上の者ハ馬のそうとの塩手の所へ結付乗べし、歩行武者ハたすきニかけよ、其外色々遣様多し口伝
現代語訳
香箸(きょうじ)は鉄製で、しっかり鍛えて作ること。曲尺(さしがね)の目盛りを刻んでもよく、取手の部分を装飾的に仕上げるのもよい。収納場所は、脇差の差表、すなわち栗形のある側に仕込むとよい。軍陣においては、敵の首級を取った際に、耳の後ろか頬骨のあたりから喉の内側に貫通させ、縄を通して首を持ち帰るために用いた。馬上の者は、馬具の四方手に結びつけて乗る。徒歩武者は、たすきにかけて携帯する。その他にも多様な用い方があると口伝がある。
参考
- 香箸とは、香道具の一つで、 香をたくとき香木をはさむのに用いる小形の箸。
笄之事

翻刻文
笄之理方古へ如何様成儀ニ用候や、慥成儀不相知、東山殿白紙白筆の御伝と言有、是ハ軍中ニて閙鋪賑、墨筆等取扱不成時多ゆへ、扇子へ右之笄の先ニて思召候義書給ふゟ、白紙白筆と被仰しと也、割笄ハ是も鉄ニてさび不出様ニして食箸香箸ニも吉、理用多して不苦物成よし、東山殿とハ足利高氏公之由
現代語訳
笄についての古来の用途は明確ではないが、「東山殿の白紙白筆の御伝」という口伝がある。その逸話によれば、戦時の喧噪において筆墨を得ることが叶わなかった折、東山殿は笄の先端を用い、扇子にご意向を書きつらね、「白紙白筆」と仰せられたという。割笄は鉄製とし、錆が出ないよう処理すると、食箸や香箸の代用にもなり重宝する。
なお、東山殿とは、足利尊氏公のことであるという。
鋸之事


翻刻文
鋸ハ両方へ刃を組違而ハ小刀ひつに底付故刃の不出様仕候有之、如此拵両面ゟ漆ニてさびの不出様にさつとぬりて大小何れも指裏の方へ仕込へし、軍中不断共に理方多し、但シ柄之所ハ柄形の遍付にして何んそ望の象眼抔入テ吉
現代語訳
鋸は、交互に刃を組み違えて作ると小刀櫃に張り付いてしまうため、挽き歯が外へ出ぬような仕立てとするのがよい。このように拵えたうえで、両面には防錆のため漆をさっと塗り、大小いずれの刀においても、差裏に仕込むことが吉である。この仕様は、戦場でも道理にかなった作法である。なお、鋸の柄には、その形状に合わせて全体的に漆を塗り、好みの象眼などをあしらえばさらによい。
塩崎のコメント
鋸という項目に疑問がございますが、珍しい作りとして小柄の棟に鋸刃を作った物もありますが、これを指しているのか定かではありません。

柄袋之事

翻刻文
常に人々柄を痛ル、其為に柄袋ヲ掛ると斗心得る多に心得違也、縦ハ古柄成共雨降は必柄袋掛へし、此心ハ柄へ水多く掛れば勝負之時働きの為にちやまになり悪シ、此故に不断ハ勿論旅をする時ハ柄袋を不放持もの也、夏なと晴天にて不図夕立村雨抔逢事あるものなれハ柄袋ハ不断心掛持者也、然共如此なれハとて不断柄掛指ハ大キニ不用心也、千万ぬき合する事有時柄袋取間に余程間の有事なれハ早業のおくれに成也、有人雨の降時合羽内へ大小の頭を入テ指たる故、敵に逢而抜合かね、うたれたる間合羽ゟ大小の柄ハ出し指もの也、我師夕立に逢常の鮫を掛、柄袋不掛、鮫うるけ表裏廻し也
現代語訳
柄が痛まぬよう柄袋を掛ける、そう心得る者が多い。しかし、明らかな心得違いである。たとえ古びた柄であっても、雨が降る時は必ず柄袋を掛けるべきである。なぜなら、柄に水が多くかかれば、いざという勝負時に支障をきたし、きわめて不都合となるからである。このため、平時はもちろん、旅に出る際には、柄袋を常に手離さず所持するのが本義である。夏の晴れた日であっても、にわか雨や村雨などに遭遇することは常であるから、柄袋を携帯すべきである。とはいえ、常に柄袋を掛けたまま帯刀するのは、大いに不用心である。いざ抜き打ちとなった際、柄袋を外すのに手間取り、早業を遅らせる原因ともなる。ある者は雨の際、大小の柄頭を合羽の中へ入れ差していたが、敵に出会った瞬間に抜刀できず、斬られてしまった。ゆえに、合羽から大小の柄を出して差すべきである。我が師においても、夕立に遭遇した際、鮫皮を掛け、柄袋を掛けぬまま差していたところ、柄の鮫皮が濡れ、表裏がずれてしまったという。
皺皮之事

翻刻文
ひきはたハ第一腰当の代にもなり、或ハさや帯にしまりさやのあつかいよく
現代語訳
皺皮(蟇肌?)は腰当ての代用品となり、また、鞘と帯との間に締まりが生じて鞘の使い勝手がよくなる。
陣刀同脇指之事

翻刻文
陣刀脇指ハ胴金等を所々に遣事重くなりて悪し、前に有之ことく拵也、縁頭こちり柄なとの拵様兎角所詮不損様に吟味して拵たる、不断指料は引はたを懸目に不立様ニ拵へ差たるハ理用多して吉と也、軍前の引はたハもよう目立ハ吉、常の引はたハ模様不目立かよし
現代語訳
陣刀および脇差に胴金などの装飾を多く施すと、重量が増し実用上好ましくない。実用を旨とする拵えは、簡素に仕立てるべきである。縁頭・小尻・柄などの拵えにおいても、結局のところは破損を避けるために慎重な吟味が肝要である。普段差しとして用いる刀には、蟇肌を目立たぬよう装着しておくのが実用的にも吉である。戦場で用いる蟇肌は模様が目立つ方がよく、常用の蟇肌は目立たぬ模様の方が好ましい。
鎧通の事

翻刻文
鎧通しハ第一むね随分厚く丈夫ニして、三角身掛りて如氷かねのきたひ能き古身の切先ふつきりとしたるは、かた物を通によし可用之と也
現代語訳
胸の部分を特に厚く丈夫に作り、三角の身に仕立て、氷のように鍛えが良く、かつ古身の切先が整っている鎧通は、固い物に突き通すのにも適しており、実用に値する。
懐中劔之事

翻刻文
大秘口伝有之
現代語訳
重大な秘伝が口伝として伝わる。
小サ刀之事

翻刻文
小サ刀ハ勝負を試て覚之有指料を替柄替さやをして用て吉、随分念を入て叶様に吟味すへし、小刀ニ差様口伝
現代語訳
小刀は、勝負の場で試し、これはよいと思った差料を用い、柄や鞘を取り替えてこしらえるのが吉である。念を入れ、自身にとって最適なものを吟味すべきである。小刀の差し方については口伝あり。
大小拵に金余り不用事

翻刻文
大小之内脇指ハ余り身を不放物也、金拵にしても少シハ不苦、是も多く付て目立様なるハ金珎鋪見え悪し、初心ニ見ヘル、武具功者成人の余不好事也、況哉刀ハ金不可付、軍場陣小屋抔ニて金の付たる刀ハ目かけて盗るゝ事有之と也、然共道具の為にハ毒也、大切之時節覚有之秘蔵の道具とられなハ鳥のつはさを失か如く成へしと也、 付金コシライニしたるとて道具業さの便りに不成事ならバ無益也、金拵ハ軍場ニて指詰りたる時引放し遣わん為めなとならハ外ニ持様可有、金の付たる見て盗まれハ金の付たる故なれハ、道具の為ニ大毒也、能々了簡すへし
現代語訳
大小のうち、脇指は打刀よりも常に肌身離さず持っているものなので、少量ならば金拵えでも問題ない。しかしながら、金を多く用いて目立つように飾ることは、金の飾りをひけらかすようで見苦しく、初心者のように見える。武具に通じた者や成熟した者には、むしろ好まれない。ましてや、打刀には金を付けるべきではない。軍時の陣小屋などにおいて、金を施した刀は周囲の目を引きやすく、盗難に遭うことも多いという。道具のためにも毒である。もし、大切な場面で秘蔵の道具を失ってしまえば、それは鳥が翼を失ったようなものである。金拵にすることで、道具としての実用性や使いやすさが損なわれるようでは無益である。もっとも、軍場で差し迫った際に、売り払って金銭に換えるような用途であれば、持ちようもあるだろう。ただし、金具を見て盗まれたならば、それはすなわち金具があるからに他ならない。ゆえに、道具にとっては毒である。このことをしっかりと理解しておくことが肝要である。
太刀ニ力を添ると云事

翻刻文
手ぬくひを水ニ而しめし柄へしめりヲ付レハ、手の内しめりて太刀振ぬけさる物なり、水無之所ならハつはきニ而も可用
現代語訳
手拭いを水に濡らして柄に湿り気を与えるとよい。こうすれば、手の内がしっとりとして、太刀が滑り抜けることがなくなり、確実に握りしめて振ることができる。もし水が得られない場所であれば、唾をもって湿らせることもできる。
前後納之事


翻刻文
引柄 口伝
現代語訳
引柄については口伝あり。
右の三十二ヶ条にわたる「大小拵理方講釈之巻」は、先師・吉田自鏡流の老練なる名匠より、快道潜龍居士に秘かに伝授されたものである。大小二振りの刀を、昼夜を問わず常に帯刀することは、蜂が自らの針を備えて外敵から身を護るように、武人として当然の心得である。刹那たりとも刀を身体から離すべきでないという教えには、活人刀・殺人刀の真味が込められている。快道先生は、武器の扱いに精通されているゆえに、この神秘の道を後進に伝えんと、あえて極秘の書をしたためられた。そして長年にわたる深いご執心の末、ついにその奥義の伝授を許されたのである。ただし、一門の者や実子であっても、その志の深さを慎重に見極めずしては、決して軽々しくこれを伝授してはならない。ましてや、門外の者に伝えるなどは、言語道断の所業である。















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