百足伝 全釈|第三十六首「兵法をあきらめぬれはもとよりも 心の水に波は立つまじ」

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語釈

あきらめぬれば

道理を明らかに見極め、悟ったならば。古語の「あきらむ」は「明らむ」であり、現代語の「諦める(断念する)」とは異なり、真理を明らかに究めるという意味を持つ。

もとよりも

元来、当然のこととして。

心の水(こころのみず)

心を、水面にたとえた表現。

波は立つまじ

波が立つはずがない。「まじ」は打消推量の助動詞。

直訳

兵法の道理を明らかに悟ったならば、当然のこととして、心の水面に波は立たないはずである。

現代語訳

兵法の道理を、真に明らかに見極め、悟ったならば、当然のこととして、心という水面に波が立つことはありません。

解説

この歌を読み解く上で、最も重要なのは「あきらめぬれば」という言葉の意味です。現代語の「あきらめる」は、多くの場合「諦める、断念する」という意味で使われますが、この歌における「あきらむ」は、古語本来の「明らむ」――物事の道理を明らかに見極め、悟る――という意味で用いられています。

つまりこの歌は、「兵法を投げ出せば、心は乱れなくなる」という消極的な教えではありません。むしろ逆に、「兵法の本質を真に悟った境地に至れば、心は当然のこととして波立たなくなる」という、修行の到達点そのものを詠んだ歌なのです。

「心の水に波は立つまじ」という表現は、これまで見てきた水月の意象体系と、直接つながっています。特に、第十二首「曇りなき心の月の晴やらば なす業々も清くこそあれ」とは、対をなすように読むことができます。12番が「心が澄んでいれば、技も清くなる」と説いたのに対し、この36番は、その澄んだ心の境地そのものを、「波の立たない水面」として、より直接的に描いています。心に迷いや執着があれば、波紋が立つように乱れます。しかし、兵法の本質を真に悟れば、そうした迷いそのものが生じる余地がなくなり、心は自ずと静かな水面のように、波立たなくなるのです。

私(塩崎関舟)の考え

「あきらめる」という言葉を、現代の私たちはつい「投げ出す」という意味で捉えてしまいますが、この歌が伝えているのは、その正反対の境地です。

兵法の道理を、表面的にではなく、本当の意味で明らかに見極めたとき、心は自然と波立たなくなります。それは、無理に心を落ち着けようと努力するのではなく、悟りの結果として、自ずと訪れる静けさです。

まだ道理を掴みきれていないうちは、心はどうしても揺れ動きます。しかし、稽古を重ね、少しずつ物事の本質が明らかになっていくにつれて、心の波立ちも、自然と静まっていくのを感じます。この歌は、そうした修行の深まりを、静かな水面という象徴で言い表しているのだと思います。

日々の生活に活かす

私たちは、物事の本質がまだよく見えていないとき、不安や迷いから、心が揺れ動いてしまいます。

しかし、時間をかけて物事の道理をしっかりと見極め、本当に理解できたとき、不思議と心は落ち着きを取り戻します。焦って心を静めようとするのではなく、まず物事の本質を明らかにしようと努めること。それこそが、揺るがない心を育てるための、確かな道筋なのではないでしょうか。

百足伝 全釈について

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『百足伝全釈 ― 無外流の教えを現代に読む ―』は、無外流居合の源流である自鏡流の流祖、多賀自鏡軒盛政がまとめた『百足伝』四十首を、一首ずつ現代語訳・解説し、塩崎関舟の考えを交えながら読み解くシリーズです。
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この記事を書いた人

幼少の頃は少林寺拳法の稽古に励み、現在は山田先生に師事し居合(無外流)と杖術(神道夢想流)の稽古に励んでいます。

無外流居合兵道:免許皆伝
無外眞伝無外流居合兵道:免許皆伝
神道夢想流:免許

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釣りやキャンプなどのアウトドア。

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