百足伝 全釈|第二十四首「長短を論することをさて置て 己が心の利剣にて斬れ」

目次

語釈

長短(ちょうたん)

物事の長所と短所、優劣。ここでは、技の巧拙や、他者・他流派との比較を指す。

論することをさて置て

議論することはひとまず置いておいて。

己が心の利剣(こころのりけん)

自らの心そのものを、鋭い剣に見立てた表現。煩悩や迷いを断ち切る、智慧としての剣。
不動明王や文殊菩薩が持っている。

不動明王

斬れ

断ち切りなさい、という命令。

直訳

長所や短所を議論することはさておいて、自分自身の心という利剣で斬りなさい。

現代語訳

技の優劣や、他者との比較を議論することは、ひとまず置いておきなさい。それよりも、自分自身の心という鋭い剣によって、断ち切るべきものを斬りなさい。

解説

この歌に詠まれる「利剣」とは、外部の敵を斬るための得物としての剣ではありません。禅の伝統において、「利剣」は古くから、迷いや執着、煩悩を断ち切る智慧の象徴として用いられてきた言葉です。この歌の「己が心の利剣」もまた、その系譜に連なるものであり、斬るべき対象は、目の前の相手ではなく、自らの内にある迷いや悪だと考えられます。

「長短を論することをさて置て」という上の句にも、重要な意味があります。「長短」とは、技の巧拙や、他者・他流派との優劣比較を指します。こうした優劣を論じる次元にとどまっている限り、そこにあるのはあくまで相対的な比較でしかなく、真に斬るべき対象――己の内なる迷いそのもの――には至ることができません。これは、第十九首・第二十首で見た「強さを競うことからの離脱」というテーマとも通じる考え方です。

外の敵と技量を比べ、優劣を論じることをひとまず脇に置き、自らの心という剣を、内なる迷いに向けて振るうこと。この歌は、剣術における「斬る」という行為そのものを、自己の内面と向き合う修行として捉え直しているのです。

私(塩崎関舟)の考え

居合の稽古をするとき、私は、目の前に敵を想定するのではなく、その日一日の自分自身を振り返り、心の中にある悪――苛立ち、怠け心、驕りといったもの――を、あえて目の前に思い浮かべることを、稽古の一つに取り入れています。

抜刀し、目の前の空間を斬るその瞬間、斬っているのは架空の敵ではなく、自分自身の内にある、断ち切るべきものです。技の優劣を論じたり、他者と自分を比べたりすることに気を取られていては、この稽古はできません。ただ静かに、自分の一日を振り返り、そこにある迷いや弱さを、剣に込めて断ち切る。それこそが、この歌が説く「己が心の利剣にて斬れ」の、実践的な姿だと私は考えています。

日々の生活に活かす

私たちは、他人と自分を比較したり、優劣を論じたりすることに、多くの時間を費やしてしまいがちです。しかし、そうした比較に気を取られている間は、自分自身の内にある課題と、真に向き合うことができません。

他者との比較をひとまず脇に置き、自分自身の心を見つめ、断ち切るべき迷いや弱さに向き合うこと。それこそが、日々を確かに前進させるための、大切な姿勢なのだと思います。

百足伝 全釈について

他の記事

『百足伝全釈 ― 無外流の教えを現代に読む ―』は、無外流居合の源流である自鏡流の流祖、多賀自鏡軒盛政がまとめた『百足伝』四十首を、一首ずつ現代語訳・解説し、塩崎関舟の考えを交えながら読み解くシリーズです。
修行者の心構えはもちろん、現代を生きる私たちの日々の生活にも活かせる普遍の教えをお届けします。

ご注意

『百足伝』には、現在広く定着した現代語訳や解釈が存在するわけではありません。
本ページに掲載している直訳・現代語訳・解説は、古文書や関連資料、無外流の伝承、そして長年の稽古を踏まえ、塩崎関舟が現時点での研究成果としてまとめたものです。
解釈にあたっては、古文書や古典の専門家のご意見も伺いながら検証を進めておりますが、新たな史料や知見、また伝承との照合によって、今後内容を加筆・修正する場合があります。
お気づきの点や異なるご見解、ご助言などがございましたら、ぜひメールにてお寄せください。
皆さまからいただいたご意見も大切な研究資料として参考にさせていただき、より正確で価値ある『百足伝 全釈』となるよう、これからも研究を重ねてまいります。

劔和會 青山道場で古武術を学ぶ

無外流居合と神道夢想流杖術を学ぶことができます。東京都港区・青山に常設道場があり、平日昼夜・土日祝も稽古を行っています。初心者から経験者まで、それぞれの目的や生活スタイルに合わせて稽古を続けることができます。

はじめはスポーツウェアなど動きやすい服装でご参加いただけます。武具のレンタルもあるため、特別な準備は必要ありません。初心者の方にも分かりやすく丁寧に指導を行っていますので、武術未経験の方でも安心して始められます。

劔和會では、無外流居合兵道および神道夢想流杖術を正しく継承し、次代へ伝えることを大切にしています。山田宏先生より受け継いだ教えをもとに、免許者が責任を持って指導を行っています。

平日は昼から夜まで、土・日・祝日も稽古を行っています。お仕事帰りや休日など、ご自身の生活スタイルに合わせて無理なく稽古を続けることができます。

東京都港区・青山に常設道場があります。青山一丁目駅、赤坂駅、乃木坂駅、六本木駅から徒歩圏内と通いやすい立地です。仕事帰りやお出かけのついでにも気軽にお越しいただけます。

見学・体験参加受付中

武術経験の有無は問いません。
まずはお気軽に道場の雰囲気をご覧ください。

会員インタビューも参考になります

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

幼少の頃は少林寺拳法の稽古に励み、現在は山田先生に師事し居合(無外流)と杖術(神道夢想流)の稽古に励んでいます。

無外流居合兵道:免許皆伝
無外眞伝無外流居合兵道:免許皆伝
神道夢想流:免許

趣味
釣りやキャンプなどのアウトドア。

目次