語釈
朝夕に(あさゆうに)
朝と夕方に、という特定の時間を指す場合と、「朝から晩まで、一日中」という広い時間幅を表す場合の、両方の意味を持つ言葉。
心にかけて
心を向けて、意識して。
稽古せよ
稽古に励みなさい、という命令。
日々に新たに
毎日、新しく。同じことの繰り返しではなく、日々更新されていく様子を表す。
徳を得るかな
徳が身につくことだ。「かな」は詠嘆の終助詞。
直訳
朝夕、心にかけて稽古に励みなさい。日々、新たに徳を得ることだ。
現代語訳
朝から晩まで、常に心にかけて稽古に励みなさい。そうすれば、日々新たに徳を積み重ねていくことができるのです。
解説
この歌の「朝夕に」という言葉には、二つの読み方が考えられます。
一つは、朝と夕方という、一日のうちの決まった時間に、心を込めて稽古に励むという、実践的な指針としての読みです。もう一つは、「朝夕」を「朝から晩まで、一日中」という意味で捉え、稽古の場面だけでなく、日常生活のあらゆる瞬間において、教えを心にかけ続けるべきだという、より包括的な戒めとしての読みです。
後者の読みを取るならば、この歌は第十六首「我流をつかはば常に心また 物云ふ迄も執行ともなせ」と、明確に呼応します。16番が「日常の何気ない会話でさえも修行とせよ」と説いたのと同じ精神を、この23番は「朝夕(一日中)心にかけよ」という、時間軸の言葉で言い換えていると考えられるのです。
一方で、この歌には16番にはない独自の視点もあります。それは「日々に新たに」という言葉です。これは、単に心の持ち方を一定に保つということに留まらず、その心がけを日々続けることによって、何かしら新しい徳が、日ごとに積み重なっていくという、成長のプロセスを示しています。心にかけて過ごす一日一日が、決して同じ繰り返しではなく、その都度、新たな徳をもたらしてくれる――そうした前向きな視点が、この歌には込められていると言えるでしょう。
この「徳」というものを、修行を山登りに見立てて捉え直すこともできます。第八首「わけ登る麓の道は多けれど 同じ雲井の月をこそ見れ」で見たように、修行は、月(教え・真理)という変わらぬ目標に向かって、山を登っていく過程になぞらえられます。月そのものは一つであっても、麓から見える景色と、山を登るにつれて見えてくる景色は、その都度異なります。徳とは、こうして一歩ずつ登るごとに、日によって異なって見えてくる景色――修行者の視座そのものの広がり――として、日々新たに得られていくものなのかもしれません。
私(塩崎関舟)の考え
稽古の時間だけを特別に区切るのではなく、朝から晩まで、常に心にかけて過ごすこと。これは簡単なようでいて、実際には容易ではありません。
しかし、こうして一日一日、心を向けて過ごしていくと、不思議なことに、同じことの繰り返しのようでいて、日によって少しずつ気づきが違うことに気がつきます。今日気づいたことは、昨日とは違う、新しい発見です。そうした小さな積み重ねこそが、この歌の言う「日々に新たに徳を得る」ということなのだと思います。
一日を漫然と過ごすのではなく、朝から晩まで、常に心にかけて過ごすこと。それが、日々を確かな成長につなげていく秘訣なのだと感じています。
日々の生活に活かす
私たちは、特別な取り組みの時間だけを大切にし、それ以外の時間は漫然と過ごしてしまいがちです。
しかしこの歌は、朝から晩まで、日常のあらゆる瞬間に心を向けることの大切さを教えてくれます。同じような毎日に見えても、心を向けて過ごせば、そこには必ず、昨日とは違う新しい気づきがあるはずです。日々を漫然と繰り返すのではなく、一日一日を心にかけて過ごすこと。それが、着実な成長への道なのではないでしょうか。
百足伝 全釈について
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『百足伝全釈 ― 無外流の教えを現代に読む ―』は、無外流居合の源流である自鏡流の流祖、多賀自鏡軒盛政がまとめた『百足伝』四十首を、一首ずつ現代語訳・解説し、塩崎関舟の考えを交えながら読み解くシリーズです。
修行者の心構えはもちろん、現代を生きる私たちの日々の生活にも活かせる普遍の教えをお届けします。
ご注意
『百足伝』には、現在広く定着した現代語訳や解釈が存在するわけではありません。
本ページに掲載している直訳・現代語訳・解説は、古文書や関連資料、無外流の伝承、そして長年の稽古を踏まえ、塩崎関舟が現時点での研究成果としてまとめたものです。
解釈にあたっては、古文書や古典の専門家のご意見も伺いながら検証を進めておりますが、新たな史料や知見、また伝承との照合によって、今後内容を加筆・修正する場合があります。
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