百足伝 全釈|第十五首「兵法の奥義は睫の如くにて あまり近くて迷いこそすれ」

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語釈

奥義(おうぎ)

物事の最も奥深い、核心となる教え。武術における究極の境地。

睫(まつげ)

まぶたの縁に生える毛。自分の目のすぐそばにありながら、自分自身の目では直接見ることができないもの。

如くにて

~のようであって。比喩を表す。

あまり近くて

あまりにも近い場所にあるために。

迷いこそすれ

「こそ」は強調の係助詞、「すれ」はその結びの已然形。「(かえって)迷ってしまうものだ」という強い断定を表す。

直訳

兵法の奥義は睫のようなものであって、あまりに近くにあるために、かえって迷ってしまうものである。

現代語訳

兵法の奥義とは、自分の睫のようなものです。あまりにも身近な場所にあるために、かえって見えず、人はそれを見失い、迷ってしまうのです。

解説

この歌は、奥義というものが、遠くの特別な場所にあるのではなく、実はすでに手元にありながら、その近さゆえに見失われてしまう、という逆説を説いています。

睫は、まぶたのすぐ縁にあり、常に自分と共にあります。しかし、自分自身の目では、その姿を直接見ることができません。あまりにも近すぎるがゆえに、かえって捉えることが難しいのです。奥義もまた、これと同じ性質を持っています。特別な秘伝や、遠くにある高度な技法の中にこそ真理があると考え、人はつい遠回りをしてしまいます。しかし、実際には、すでに最初から示されている、ごく身近な教えの中にこそ、奥義は宿っているのです。

この歌は、第十四首「とにかくに本を勤めよ末々はついに治るものと知るべし」と、表裏の関係にあると考えられます。14番が「まず本(根本)に励め」という行動の指針を説くのに対し、15番は「その本こそが、実は奥義そのものなのに、近すぎて見失われてしまう」という、人間の認識のつまずきそのものを描いています。基本稽古を「まだ奥義には程遠い、単なる準備段階」として軽んじてしまうのは、まさにこの歌が指摘する「近すぎて迷う」姿そのものと言えるでしょう。

私(塩崎関舟)の考え

この歌は、第十四首と同じことを、別の角度から語っているように感じます。奥義は、初めから習っているものです。それにもかかわらず、修行を重ねる中で、私たちはつい「もっと他に、特別な何かがあるのではないか」と考え、遠回りをしてしまいます。

しかし、ふと気づいたときには、すでにそれは最初に教わっていたことだった、ということが少なくありません。奥義は、遠くを探し回った先にあるのではなく、最初に示された、身近な教えの中に、初めから宿っていたのです。

だからこそ、遠くに答えを求める前に、すでに手にしている教えを、今一度見つめ直すことが大切なのだと思います。

日々の生活に活かす

私たちは、物事の答えや解決策を、つい複雑なところ、遠いところに求めてしまいがちです。しかし、本当に大切なものは、実はすでに身近なところにあり、単に見えていないだけということが少なくありません。

新しい方法や特別なやり方を探す前に、すでに自分が知っていること、すでに手元にあるものを、今一度見つめ直してみる。その中にこそ、探し求めていた答えがあるのかもしれません。

百足伝 全釈について

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『百足伝全釈 ― 無外流の教えを現代に読む ―』は、無外流居合の源流である自鏡流の流祖、多賀自鏡軒盛政がまとめた『百足伝』四十首を、一首ずつ現代語訳・解説し、塩崎関舟の考えを交えながら読み解くシリーズです。
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『百足伝』には、現在広く定着した現代語訳や解釈が存在するわけではありません。
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この記事を書いた人

幼少の頃は少林寺拳法の稽古に励み、現在は山田先生に師事し居合(無外流)と杖術(神道夢想流)の稽古に励んでいます。

無外流居合兵道:免許皆伝
無外眞伝無外流居合兵道:免許皆伝
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