百足伝 全釈|第十三首「軍にもまけ勝あるは常の事 まけて負けざることを知るべし」

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語釈

軍(いくさ)

戦い、合戦。ここでは広く、勝負事一般を指す。

まけ勝(まけかち)

負けと勝ち。勝敗。

常の事(つねのこと)

ありふれたこと、いつものこと。特別なことではない、という含み。

まけて負けざる

負けて、なお負けない。動詞「まく(敗く)」を「負けて」「負けざる」と二度重ね、逆説的な状態を表す言い回し。

知るべし

知っておくべきである、学び取るべきである、という促しの表現。

直訳

戦いにおいても、勝ち負けがあるのはありふれたことである。負けて、なお負けないということを、知っておくべきである。

現代語訳

勝負事において、勝ち負けがあるのは、ごくありふれたことです。しかし、負けたとしても、真には負けていない――そのことを知っておくべきです。

解説

この歌は、「まけて負けざる」という逆説的な言い回しの中に、二つの層の教えを重ねていると考えられます。

一つ目は、目の前の敗北から学ぶという、実践的な姿勢です。「軍にもまけ勝あるは常の事」とあるように、勝敗そのものは特別視するものではなく、稽古や立合いにおいて自然に起こることです。大切なのは、負けた事実そのものよりも、そこから何を学び取るかにあります。敗因を見つめ、技量や心構えを磨いていく――そうした謙虚な学びの姿勢がなければ、次の一歩は生まれません。「知るべし」という言葉には、こうした能動的な学びを促す響きがあります。

しかし、この歌はそれだけに留まらないように思われます。「まけて負けざる」という表現そのものに注目すると、これは単に「今は負けても、いつか勝て」という時間的な因果関係を述べているのではありません。同じ一つの出来事の中に、「負け」と「負けなさ」が同時に存在する、という逆説がここには込められています。

これは、後に登場する第二十首「兵法の強き内にはつよみなし 強からずして負けぬものなり」と同じ構造を持っています。20番が「強さを誇示しないことこそ、真に負けない強さである」と説くように、この13番は「負けという結果そのものに動じず、そこに揺るがぬ境地を見出すこと」を説いているとも読めるのです。勝敗という表面的な結果にとらわれず、その奥にある己の在り方が揺るがなければ、たとえ立合いに敗れたとしても、それは真の意味での敗北ではありません。

つまりこの歌は、日々の敗北から謙虚に学び技量を磨く姿勢(実践の入口)と、勝敗という結果そのものへの執着を離れた揺るがぬ境地(修行の深まり)という、二つの段階を一首の中に重ねて示していると言えるでしょう。前者の積み重ねなくして、後者の境地に至ることはできません。

私(塩崎関舟)の考え

稽古を重ねていく中で、負けを経験することは避けられません。大切なのは、その負けを丁寧に振り返り、次に活かすことです。技のどこが甘かったのか、間合いの読みが浅かったのか、一つひとつ検証していく積み重ねが、確かな力になっていきます。

同時に、稽古を重ねる中で、勝ち負けという結果そのものに、一喜一憂しなくなっていく瞬間があるようにも感じています。負けたという事実よりも、その立合いの中で自分がどう在れたか、どこまで心を乱さずにいられたかの方が、はるかに大切に思えてくるのです。

反省を怠らず、しかし結果には執着しない。この一見矛盾するような二つの姿勢を、共に持ち続けることこそが、「負けて負けざる」という境地への道なのだと思います。

日々の生活に活かす

仕事でも人間関係でも、思うようにいかない結果に直面することは、誰にでもあります。その失敗から学び、改善していく姿勢は、成長のために欠かせません。

一方で、結果そのものに一喜一憂しすぎると、かえって次の一歩を踏み出しにくくなることもあります。失敗を糧にしながらも、それに縛られすぎない。負けたという事実の奥に、揺るがない自分を保ち続けること。それが、日々を前向きに歩み続けるための、大切な心構えなのではないでしょうか。

百足伝 全釈について

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『百足伝全釈 ― 無外流の教えを現代に読む ―』は、無外流居合の源流である自鏡流の流祖、多賀自鏡軒盛政がまとめた『百足伝』四十首を、一首ずつ現代語訳・解説し、塩崎関舟の考えを交えながら読み解くシリーズです。
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『百足伝』には、現在広く定着した現代語訳や解釈が存在するわけではありません。
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この記事を書いた人

幼少の頃は少林寺拳法の稽古に励み、現在は山田先生に師事し居合(無外流)と杖術(神道夢想流)の稽古に励んでいます。

無外流居合兵道:免許皆伝
無外眞伝無外流居合兵道:免許皆伝
神道夢想流:免許

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釣りやキャンプなどのアウトドア。

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